■代表挨拶

産科医療補償制度を考える親の会 代表の永島祥子です。
私の息子は産科医療補償制度の「個別審査」で対象外となった約600人の当事者の子供の1人です。

産科医療補償制度には申請期限である5歳の誕生日の4日前に申請をしました。
私自身、子供が生まれてから早期療育や長期付添入院で脳性麻痺児の知り合いが多く、一定の層に設けられている「個別審査」の合否が出た周りの子供達の状況から「今の個別審査基準で公平な審査は出来ていない」という強い確信がありました。
そんな状況でしたので、息子もその審査にかけられるという恐怖心が強く申請期限のギリギリまで個別審査と向き合う事が出来ず逃げていました。

しかし妊婦の時に“出生時の重度脳性麻痺児には補償がされる国の保険のような制度”と病院から説明をされサインはしましたので、それならば息子はこの制度下に於いて「補償対象」「息子のような子供達の為にある制度」という気持ちもあり 最終的には申請をしました。


結果は「個別審査で対象外」。


個別審査基準と照らし合わせると、息子には出生時の低酸素が認められない、という事でした。
個別審査では約50%の子供が補償対象外となります。
医療的ケア児や息子のような重度脳性麻痺児も対象外とされています。

「あたりくじにハズレたんだ。もう一生泣き寝入りだ。忘れよう。」と自分に言い聞かせ補償金が出たらやりたかったリハビリや高額な治療もありましたが、諦める覚悟をしました。

それから4年の月日が経った頃、この「産科医療補償制度を考える親の会」という産科医療補償制度の個別審査で対象外となった子供を持つ保護者の会が結成されているのを知り、入会しました。


活動を始めてから制度を見る目が変わりました。
私は保護者ですからこの制度は「出産で脳性麻痺になった子供に補償がされる制度」とだけ思っていました。しかし、本来そうではありませんでした。「医師に過失があろうが無かろうが、分娩でハンデをおった子供に補償をし、産科医を訴訟のリスクから守り、産科医の“なり手”不足が生じないよう 産科医の先生を守る制度」だったのです。

それを知った時、本来産科医療補償制度は“社会全体で日本の安全なお産に貢献する素晴らしい制度”なのだと気づきました。

今、弊会が行っている制度に対する活動は「個別審査層における補償漏れの特別措置のお願い」という限定的な事ですが、この制度の特性上よりよく制度が機能することは、確実に少子化対策に繋がるものだと日々強い思いを持ち活動をするキッカケにもなりました。


私自身1人目の子供が脳性麻痺を負い、その脳のダメージから知的障害、てんかん、嚥下障害など多くの合併症を負いました。今でも毎日出生病院の横を通ります。毎日「あの時、出来た事がありましたよね?」と当時の主治医に聞きたい事が沢山あり、胸が苦しくなります。

そんな気持ちを抱え、重度脳性麻痺児を抱えての毎日の中 ふと届けられた「個別審査対象外」の通知。
これはこの国で2人目を産めないという決定打になりました。
この個別審査は、合否が正確に出せないとしながらも、すぐ中止とされず、これから約4年続きます。
まだまだ個別審査対象外の子供が出てきます。

障害児が生まれただけでも人生に於いて大きな衝撃です。私のように失望をし、2人目を産むのが嫌だと思うお母さんたちを増やしたくないという気持ちもあり、早く活動を実らせたいと日々頑張っています。


最後に、どんなに医学が進歩しても、どんな有能な産科医の先生の病院でも、出産でハンデをおってしまう子供達は稀ですが、必ず生じます。

その稀なケースで我が子が大きなハンデを負った時、その家庭の動揺と不安。産科医とのトラブルを少しでも緩和してくれる制度が産科医療補償制度ではないでしょうか。


健常児で生まれていたらどんな息子だったのだろうと思う事は減りました。
喋る姿、歩く姿を見たかったと思う事も減りました。
健常児としての息子の人生を返してほしいと思う事も減りました。
でも産科医療補償制度に於いて息子が受けられるべきであった補償は今からでもして欲しいです。


全国に同じ状況の当事者家族が居ます。
最後まで諦めず、利己的にならずに感謝の気持ちを忘れず引き続き話し合いを進めていきたいと思います。





2023年3月14日
代表 永島祥子



個別審査では長年このような状況が乱発し、補償状況の歪さから子供の生活に大きな差と不平等が生じてきました。

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